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演劇は自由だ! 〜風煉ダンスに寄せて〜

演劇ぶっく編集長 坂口真人

 私たちが作っている雑誌「演劇ぶっく」は、創刊から30年になります。その間に、“雑誌”の販売数はほぼ半減したそうですが、あまりその増減の実感もなくここまで漂流してきました。

 “演劇”も時代とともに変化してきました。ちなみに1986年創刊号の表紙は風煉ダンス座長の笠原真志さんの出身劇団、第三エロチカ公演の舞台写真でした(http://enbudenshi.com/参照)。 

 当時は学生劇団出身の若手を中心とした公演が人気を呼び、“小劇場演劇”などとも呼ばれ、社会的な現象としてマスコミにも多く紹介されていました。それ以前にあった“アングラ演劇”の影響を受けつつも、独自のオリジナリティ溢れる「明るい不条理演劇」的な世界を展開していて、若い観客たちがたくさん劇場につめかけていました。

 そんな状況下で創刊した「演劇ぶっく」ですが、本のタイトルは前回の風煉ダンス『泥リア』に出演していた俳優の飯田孝男さんによるものです。飯田さんと私は発見の会という演劇集団の同期生でして・・・。

 お互いにいい年になりまして、もうそんなに何回も飯田さんの舞台を見る機会もないかなと、ふらっと『泥リア』公演会場の井の頭公園に出かけました。

 当日はかなり強い雨でしたが、野外劇は(自分が濡れなければ)雨の日が絶好です。舞台になるフィールドの外側では、一般の人が犬の散歩をしたり、自転車も通ります。途中で立ち止まってこちらを見ている人もいます。黄昏時でもあり、なんとも浮き世離れした清々しい風景でした。お目当ての飯田さんは、そのクレバーな痴呆性(役柄)を遺憾なく発揮してすばらしいできばえでした! が、さらにさらに、ここには志高い本物のエンターテインメントがありました! 泥まみれになり駆けずり回る個性豊かな俳優たち。特大のユーモアたっぷりで奇天烈な怪獣。豪快な、それでいて細やかな舞台美術。スタッフ・キャスト全員がそれぞれに個性を発揮しながらの献身的な舞台。怒り、悲しみ、そして希望・・・。観客の魂を、優しくそして強烈に揺り動かしてくれる公演でした。

 この公演に刺激を受けて、演劇ぶっくでは「演劇は自由。」という、風煉ダンス『泥リア』公演の紹介記事を中心に掲載した特集を組ませてもらいました。

 次回の風煉ダンスの公演は、幻の町の誕生と消滅と再生の物語とか。あの健気でいとおしい俳優たちにまた出会えるかと思うとワクワクした気分になってきます。そして摩訶不思議な演劇ワールド。幻の町の出現をたのしみに待つことにしましょう。

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