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人さらいされた夜

椿組 外波山文明

 昨年の9月。吉祥寺井の頭公園西園、ジブリ美術館真裏にて風煉ダンス「泥リア」を観る。吉祥寺駅から歩く事20分近く。この歩く距離、時間が芝居観劇には重要だ。特に野外劇……行った事のない街・風景を身体に取り込みつつ否応なくワクワク感が募るからだ。

 会場は囲いも無い公園そのものの野原。そこにこつ然と地面から突き出た缶詰のオブジェ。夕まぐれの5時30分の開演。涼を求め散策する人々、買い物帰りの街の人々をも取り込んでの非日常の芝居の開幕だ!!

 私も45年前から野外劇、街頭劇、テント公演を続けている者として数々の経験の元、試行錯誤しつつ新たな物を見つけるべく実験を重ねて来たがこの「泥リア」には新鮮な驚きを覚え興奮しつつ時間を忘れ見入ってしまった。日が落ち闇が迫る前の逢魔が時、人さらいに逢ってしまった感覚だ。そこにある日常の空間がえも知れぬ世界へと導き連れて行ってくれ、至福の時を与えてくれたのだ。そんな野外劇の魅力を最大限見せてくれた風煉ダンスの面々の「いさぎよさ」を今年も期待したい!

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